【着物染み抜き・修復】
着物の染み抜きは、どの作業を初めに行うかがとても大切です。順序を間違えると生地を傷めてしまいます。種類別の染み抜き方法について、着物修復を専門とする当店の考えをご説明いたします。
- 1. 着物修復の専門家が解説する染み抜きの方法について
- 1.1. 食べ物など蛋白質を含む染み抜きについて
- 2. 着物の染み抜きを行う上で最も大切なこと
- 2.1. シミの成分を見極める
- 2.2. 着物生地や染めの状態を確認する
- 3. 着物の染み抜き応急処置の方法
- 4. 染み抜き料金について
- 4.1. 見積もり無料
- 4.2. シミが綺麗にならなければ返金保証
- 5. しみの種類別対処方法
- 5.1. ① 付着の染み抜き
- 5.1.1. (付着のしみの対処方法)
- 5.2. ② 吸着の染み抜き
- 5.2.1. (吸着のしみの対処方法)
- 5.3. ③ 粘着の染み抜き
- 5.3.1. (粘着のしみの対処方法)
- 5.4. ④ 染着の染み抜き
- 5.4.1. (染着のしみの対処方法)
- 5.5. ⑤ 変色の染み抜き
- 5.5.1. (変色のしみの対処方法)
- 6. 着物染み抜き修復事例
着物修復の専門家が解説する染み抜きの方法について
先ずは、現状を確認して原因を推測すること、生地の状態を確認することが大切です。
原因を理解しないで作業を進めることは、生地の破損に繋がります。
分解には、水や界面活性剤、蛋白質分解酵素や各種有機溶剤などを使用します。
生地の状態を確認しながら、複数回に分けて作業を進めていきます。
シミにより、友禅や金彩が傷んでいる場合は、製造された時の工程と同じような作業で修復します。
食べ物など蛋白質を含む染み抜きについて

● 食べこぼし、血液など(蛋白質を含む)のしみについて
蛋白質の種類によっても異なりますが、約60度以上になると固まり始めます。
蛋白質を含んだしみを完全に除去する前に熱を加えると、シミが着物の生地内で固まってしまいます。
このシミを分解するには蛋白質分解酵素が必要となるのですが、着物の生地に多く使われる絹はフィブロインと呼ばれる蛋白質からできているため生地を弱らせてしまう可能性があります。
シミを抜かずに丸洗いをすることはお勧めできません。
一般的に丸洗後は、アイロンを使用し熱を加えプレスされます。
このプレス作業で、着物生地の中でシミの蛋白質が固まってしまうと、染み抜きは難しい作業に変わってしまいます。
染み抜きにかかる時間が数分のところ、固まった蛋白質を除去するためには数時間〜数日かかる場合があります。
作業時間が長く掛かれば、染み抜きの料金も当然ですが高くなります。
このように着物に付いたシミを除去せず丸洗い(プレス)をするなど、染み抜きの順番を間違えると着物の生地を痛める原因となってしまいます。

着物の染み抜きを行う上で最も大切なこと
着物の染み抜きは、作業を開始する前に確認しておかなければならない最も大切なポイントが2点有ります。
シミの成分を見極める

シミを付けてしまった際、応急処置としてオシボリで叩いてしまった経験はございませんか?
当店に持ち込まれるお着物の中にもこのようなケースが多くあります。
付いてしまった成分が『水溶性』か『油溶性』により処置の方法は大きく異なります。
醤油のような『水溶性』の場合には、オシボリを使用して90%以上効果が有ります。
しかし、天麩羅の油やオリーブオイル等『油溶性』のシミは水には溶けないため
オシボリのみで染み抜きを行なっても殆ど取ることができません。
着物生地や染めの状態を確認する
着物の修復を行う上で、最も注意を払わなければならないのは『生地の状態を確認する』ことです。
保管状態にもよりますが、製造されてから30年程であれば大抵の場合作業が可能です。
しかし、40年を超え100年前に製造された着物を修復する際は、洗うことが可能かどうかを見極め、生地を破損してしまわぬよう細心の注意を払って作業を進めることが大切です。
そのため経年した着物は一部縫製を解き、着物の縫込みの中の見えない所を使いテストを行った上で、作業可能か判断する場合がございます。
着物の染み抜きの作業には「何が、いつ、どのような状態で」等と原因の推測も重要です。
染み抜きには一般的に言われている作業の順番があります。
しかし、シミが予測できる場合、セオリーに従って染み抜きをしても、必要のない作業をすることになりかねず生地を痛めてしまう可能性があります。
シミの原因を予測し、着物生地の状態を確認しながらの作業が非常に大切だと考えています。

着物の染み抜き応急処置の方法

着物を着用時、外出先でシミを付けてしまった際の応急処置です。
オシボリなどを使用されることが多いと思われますが注意が必要です。
着物の生地(絹)は光沢が命と言われるほどデリケートな素材です。
絹は水を含むことで生地が膨らみます。この状態が一番生地がデリケートになります。
水で膨らんだ生地を叩く、擦る事で着物生地の表面の繊維が切れ、顕微鏡で見ると極々小さな毛玉の様になります。
この状態をスレと言います。生地を斜め横から見ると白く見え光沢が失われます。
この様な状態になると物理的に完全修復は不可能となります。
その為、応急処置で大切なのは、濡れた状態で叩かない、擦らないことです。
それでは、着物の応急処置では何をすべきか考えてみましょう。
先ず行なっていただきたいのは、シミを吸い取ることです。
付いたばかりのシミは濡れていることが多く、その水分を乾いたティッシュ、キッチンペーパー等を使い『擦るのではなく、おさえる様に』吸い取ります。
この処置で、水・日本酒・白ワインなどの色の薄い飲み物の場合、見た目には殆ど分からなくなります。
醤油などの水分を含んだ物も70%程薄くなります。油分を含んだシミの場合も紙には吸油性がある為薄くなります。
ポイントは、『叩かない・擦らない』ことです。
あくまでも応急処置ですので、目立たなくなったところで作業を止め、早めに染み抜きをご依頼ください。
染み抜き料金について

染み抜き料金の設定は、作業に掛かる時間により決まります。
例として、着物に染みが付いて時間の経っていない醤油の染みの場合、2〜3cmを1箇所として500円程(作業に掛かる時間お預かりのご相談からお渡しまで30分程)
時間が経過し固まった血液の染み抜き2〜3cmを1箇所として3000円程(作業に掛かる時間2〜3日程)
着物の友禅や金彩修復が必要な染み抜きの場合、1箇所につき4000円を超える事もあります。また、染み抜きの工程として着物を一部解いての作業となる場合は、別途繕い代がかかります。
見積もり無料
お電話で料金のお問い合わせをいただくことがよくございますが、シミの付いている箇所や生地、染めの状態など直接拝見しないと正確な見積もりは出すことが出来ませんのでご了承くださいませ。
当工房は出来る限り綺麗な状態にシミを抜き、お客様のお役に立てるよう作業を行っております。
当工房内にて染み抜きを行うため、作業を行う職人に直接ご相談いただく事が可能です。
責任を持って見積もりを出させていただき、作業を行っていきたいと思っております。
店頭、郵送での見積もりは無料で行っておりますので、ご予約、お問い合わせをお待ちしております。また、『染み抜きおまかせプラン』というサービスも行っております。
ご希望の金額で、どの程度まで直すことが出来るかのご相談、またお着物を着用した際に目立つ所を中心に染み抜きを行うことも可能です。
シミが綺麗にならなければ返金保証
お客様の大切なお着物の修復に携われることは、着物修復家として大変幸せなことだと思っております。
持ち得る技術を最大限に活かし修復することをお約束致します。
しかし、シミや汚れが現状より綺麗にならない(全く変化が無い)場合、当店の判断基準により染み抜きの代金を返金いたします。
※生地や染み抜きのテストを行う場合は料金がかかります。効果がなければ、作業代金からテスト作業代を差し引いて返金いたします。
しみの種類別対処方法
しみには大きく5種類に分類することができます。
当工房での作業の説明をしみの種類別に解説いたします。
① 付着の染み抜き

付着とは、抹茶やファンデーション、泥など粉末状のもののしみをいいます。
抹茶や泥はねのシミは、付いた時は水分を含んでいます。また液体ファンデーションのシミも湿度を含んでいます。
粉末状だからと言って無闇にブラシ掛けをすると生地を傷めるため危険です。
●抹茶のしみの場合、完全に乾かした後、着物生地の縦の目に沿うようブラシ掛けすることで一時的に目立たなくなります。
ただし、放っておくと後々確実に変色していきます。
●泥はねは昔の泥はねと現代の泥はねでは成分が異なります。
現代では車の排気ガスやアスファルトの油分、街路樹やビルの壁を伝って地面に落ちた汚れた水などが混ざりあった黒い泥はねとなっています。
昔の泥はねであれば、乾燥した後、着物生地からはたき出すことで目立たなくすることが出来ましたが、現代では同じようにはたき出しても全く変わりません。
●ファンデーションの場合は、着物生地の縦の目に沿ってベンジンを使用しブラッシングすることで綺麗になります。
当工房でも「着物染み抜き教室」を開催し、ファンデーションのシミを落とす方法を紹介しております。
(付着のしみの対処方法)
当工房での付着のしみの対処方法です。付いている物により使用する薬品は変わります。
●抹茶のしみは、界面活性剤とベンジンを使用して下洗いをします。この時点で90%程落とすことができます。
ただ、目立たなくなっているだけで完全に除去したわけではなくそのまま時間が経つと確実に変色するため、石鹸と水を使い生地の中から成分を抽出します。最後に超音波洗浄機を使用し完全に洗浄して作業完了です。
●泥はねはマジックのインクを落とす様な溶解力の高い界面活性剤を使用して洗い落とします。
この界面活性剤を洗い落とすには、水を使い超音波洗浄機による洗浄に加え、有機溶剤を使っての洗浄も必要となります。
着物の染み抜きをする上で大切なのは薬品を残留させないこと、作業の痕跡を完全に消すことです。
一時的に綺麗にすることも出来ますが、シミを抜いた跡が後々変色してしまうようでは完全な染み抜きの作業とは言えません。
●ファンデーションの染み抜きはベンジンを使用して洗浄することで殆ど除去できます。
着物の衿の部分に付くことが多く、皮脂汚れも同様にベンジンで洗浄可能です。
注意したい点は、ファンデーションや皮脂の汚れと汗が混ざって付いた場合です。
汗染みの完全除去には水を使う必要があるため、超音波洗浄機を使用して洗い流します。
② 吸着の染み抜き

醤油、ソース、血液、口紅などの液体や水分を多く含んだしみを云います。
●醤油とソースは、石鹸と水を使用することで殆ど除去することが可能です。
●血液のシミは、付いて直ぐの乾いていない状態であれば石鹸と水で殆ど落とすことが可能です。しかし、時間の経過や熱が加わることで落としにくくなります。
●口紅のシミの場合、界面活性剤と有機溶剤と水を使うことで除去することが可能です。
近年、落ちにくい口紅などが販売され、今までの方法では落としにくくなっているものもあります。
(吸着のしみの対処方法)

当工房での吸着のシミの対処方法です。付いているしみにより使用する薬品は変わります。
●付いて時間の経っていない醤油やソースなどのシミは短時間で落とすことが可能であるため、店頭に持ち込まれ、即日ご納品となるケースがよくあります。
石鹸と水を使い超音波洗浄機を使用し生地から除去する方法で染みを抜きます。同じシミでも時間が経つと変色することがあります。その場合、上記の様に洗浄した後、酸化漂白の作業が必要となります。
この酸化漂白には、アルカリ性の助剤を使う為、使用後は中和剤を使用し完全洗浄が必須となります。何故なら、絹はアルカリ性に弱く薬品の残留は生地を傷める原因になるからです。
この酸化漂白は血液やこの後に記載する変色の染み抜きにもよく使用する方法です。
●血液も同様に付いてから時間の経っていないシミは簡単に落とすことが可能ですが、熱が加わると染み抜きは難しくなります。血液は蛋白質のため、蛋白質分解酵素を使用します。
この酵素は数種類あり、蛋白質の種類によって使い分けます。着物生地の色が抜けてしまう場合もあり、使用後は染料を使用した部分的な染め直しが必要となるケースもあります。
●口紅の染み抜きは、使用する薬品の順番を間違えると抜けなくなることがあります。
有機溶剤を使用し着物の生地から成分を抽出する方法でシミを抜きます。
この時点で80〜90%程のシミを落とすことができます。
その後、界面活性剤を使用し洗浄することでシミは完全に除去できます。
染み抜きの後に、薬品の残留が無い様に、更に有機溶剤を使って洗浄し作業終了です。
③ 粘着の染み抜き

ガム、餅、接着剤などの粘着物のシミをいいます。
●着物に粘着物のシミが付いた際には、出来るだけ触らずに染み抜きをご依頼されることをお勧めしますが、付いて直ぐの状態であれば表面の摘んで取れる部分だけ取っていただいても構いません。
何故なら、付いたままにしておくと他の箇所にシミが広がる可能性があるからです。
着物の生地に折れ目を付けないように注意して摘み、表面の盛り上がっている所のみを取ってください。
擦ると確実に着物の生地を傷めますので絶対に擦らないようにしましょう。
(粘着のしみの対処方法)

当工房での粘着のシミの対処方法です。付いているものにより使用する薬品は変わります。
●ガムの染み抜き方法は付いている量により変わりますが、表面に盛り上がって付いている場合、冷却し、固めてから着物生地に負担をかけない様に表面を剥がします。その後有機溶剤を使用し洗浄し除去します。
●お餅の染み抜きは、水を加えることで柔らかくなるため時間を置いてから洗浄します。また、デンプンを分解する薬品を使用し洗浄することで完全に除去が可能です。
●接着剤の染み抜きは、接着剤の種類により除去しにくいものもあります。
瞬間接着剤はアセトンを使用すると除去が可能ですが、溶解率が高いため着物の生地を確実に弱らせます。極力アセトンの使用量を減し、生地の状態を見つつ負担の少ない薬品から複数に分けて染み抜きを行うなど、慎重に作業を行います。
④ 染着の染み抜き


ボールペンのインク、コーヒー、赤ワインなどの染まってしまうシミをいいます。
●油性ボールペンやマジックインクなどは、有機溶剤で溶かして落とします。
●コーヒーや赤ワインはシミが付いた時点で染まってしまいます。
染まってしまうと漂白が必要となりますが、市販されている漂白剤などを使ったセルフケアは危険ですので、専門店にご相談ください。
(染着のしみの対処方法)
当工房での染着のシミの対処方法です。付いている物により使用する薬品は変わります。
●油性ボールペンやマジックの染み抜き方法は、界面活性剤と有機溶剤を使用し、溶かし落とす方法が一般的です。また、薬品を残留させない為に染み抜き後は水を使用し洗浄します。
シミの付いている箇所に金彩の柄が入っている場合は注意が必要です。
何故なら、金彩が溶け出す恐れがあるからです。
その場合、事前にマスキングを行ったり、染み抜き後に金彩を描き直す作業を行うことで作業は可能です。
コーヒーや赤ワインのシミ抜きの方法は、水を使って生地の中からしみの成分を抽出し漂白することで完全に除去出来ます。
漂白すると着物の色が変色する恐れもある為細心の注意が必要です。
⑤ 変色の染み抜き



時間が経って黄色く浮かび上がった汗のシミや、カビによる黄色い点をいいます。
この黄色く変色した染み抜きは、染み抜きのプロでも落とすことが困難な作業ですが、きもの工房 扇屋では、変色の染み抜きも得意としています。
(変色のしみの対処方法)
当工房での変色のシミの対処方法です。
シミが抜けても着物生地を破損させないように、先ず最初に生地の状態を把握します。
次に、染められている染料が薬品とどの様に反応するかテストを行うと同時に、変色を起こした原因を推測しながら作業のプランを組み立てます。
原因が特定出来れば、それに合わせた抽出方法、漂白方法を考え作業に取り掛かります。
この作業は、主に酸化漂白ですが還元漂白を使用する場合もあります。
一番注意すべき点は、着物生地を傷ませないことです。
シミが抜けたら染料を使用し部分的な染め直しを行います。その際、筆や刷毛だけで無くエアーブラシを使うことでより自然な状態に修復が可能となります。
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