【紋入れ・紋入れ替え・紋消し】

紋が汚れた、滲んだ、シミが付いた時の対処方法について説明します。

着物の家紋について

平安紋鑑・江戸紋章集

家紋とは、各家に伝わるマークのことを言い江戸時代以降、一般の庶民の間にも広がり現代では多くの家庭に存在しています。

着物の紋の数は3種類あり、TPOに合わせ使い分けることが一般的とされています。

また、着物に紋を入れる方法は大きく分け2種類存在し、染め抜き紋(描き紋)と縫い紋(刺繍紋)が有ります。

紋の数について

着物の紋には、背中の中心、首から少し下がった所に位置する「背紋」があります。

この背紋のみ有る着物は『一つ紋』と呼ばれます。

着物を着用して両袖の後側に位置する紋を「袖紋」と言い、背紋に加え2つの袖紋が入ることで『三つ紋』と呼ばれます。

更に、三つ紋に加え両胸部分に2つ「前紋」と呼ばれる紋が入ることで『五つ紋』となります。

着物の紋の数はこの『3種類』が一般的となります。

『一つ紋・三つ紋』の使用については、準礼装または略式礼装として使用されますが、『五つ紋』は正礼装として使用されます。

紋の数による着物の格式については、「五つ紋>三つ紋>一つ紋」とされます。

使用できる紋の数は着物の種類によっても異なります。

正礼装である五つ紋は、「黒留袖・色留袖・喪服」のフォーマル着として使用され、略礼装・準礼装で使用される三つ紋は「色留袖・訪問着」等、一つ紋は「訪問着・付下げ・色無地」などの着物に使用されることが一般的です。

黒留袖と喪服には染め抜き紋を入れるのが一般的です。それ以外の着物については、染め抜き紋と縫い紋の何方でも構いませんが、染め抜き紋の方が縫い紋より格式は高いと言われています。

紋が入ることで格式を上げてしまうぶん、凡庸性が低くなってしまうということで、同色の目立たない縫紋を入れる方も多くいらっしゃいます。

男紋・女紋について

一般的に男性の着物に入れる男紋は約3,8cm、女性の着物に入れる女紋は約2,1cmです。

各家には父方と母方の2種類の家紋が存在し、家紋として使用されるのは父方の男紋、女性は母方の家紋を継承していくのが一般的とされています。

しかし、地域により紋に対する考え方が異なることもあり、時代や価値観によって変わっていくものなのかもしれません。

家紋が不明な時の確認方法

紋帳

家紋が不明な場合は、ご先祖のお墓や御仏壇を確認していただくとわかることが多いです。また、親族親戚に伺うことで判明することもございます。

着物の家紋名を調べるために必要な資料として、写真の様な「平安紋鑑」や「江戸紋章集」などの『紋帳』が存在します。

平安紋鑑に記載されている紋の種類は4,100以上に上りますが、それ以外の紋も多く存在します。

家紋がない場合

家紋が無い場合には新たに紋を作ることも可能です。

海外から移住された方から家紋作成のご依頼をいただいたこともございます。

家紋には、自然をモチーフにしたものが多く存在します。

新たな家紋はご先祖に所縁のあるものを選ばれることをお勧めします。

染め抜き紋(新たに紋を入れる方法)

新たに染め抜き紋を入れる場合、留袖や喪服には5箇所、白い丸の状態で販売される着物が多くあります。

この白い丸の紋は『石持(こくもち)』と言います。

石持は、白生地の状態でゴム伏せや糊伏せし、染料が入らないように染めて製造されます。

販売されている段階で紋が汚れていることが多いため、紋洗いすることをお勧めします。

紋洗いとは、石持部分を薬品を使用し白く抜き直す作業です。

白く抜き上がった紋に紋章上絵を描き加え紋入れの出来上がりです。

石持が入っていない場合は、紋抜きの作業が必要となります。

紋抜きとは、三品改良という薬品を使用し部分的に紋を白く抜く作業です。

濃い色の場合には紋が真っ白に抜けないこともあり、その場合は刷り込みを行います。

また、製造されてから長い年月が経った着物の中には、生地の強度が下がり薬品に耐えられないこともあるため「刷り込み紋」をお勧めする場合もございます。

借り物の着物に一時的に紋を入れる場合「貼り付け紋」という方法もあります。

縫紋入れ(刺繍紋)

縫紋入れには、手刺繍とミシン刺繍があります。

縫紋の種類には、刺繍糸を多色使いし、一般の紋より少し大きめの華やかな「加賀紋」や、刺繍方法の違いにより名称が異なる「けし縫い」「すが縫い」「相良縫い」「まつい縫い」「蛇腹縫い」などがあります。

刺繍糸の色を選ぶのも楽しみのひとつで、上品で落ち着いた雰囲気にしたい場合には、同系色の濃い色か薄色がお勧めです。

紋洗い(紋の滲みを直す方法)

石持に新たに紋を入れる時や、紋が濡れて滲んだ場合、シミが付いた、カビが発生して紋が汚れた場合には紋洗いの作業が必要となります。

紋洗いの作業とは、三品改良を使用して紋を白く抜きなおします。その際、紋章上絵が薄くなるため描き直す必要があります。

紋入れ替え(紋を変える方法)

紋入れ替えとは、今入っている紋とは異なる紋を入れることをいいます。

現状の紋が何で描かれているかにより作業内容が異なります。

墨を使用した手描き紋の場合、上絵を落とす作業では墨の染み抜きが必要となります。

その後、新しい紋の形に白く抜き直し、上絵を描いていきます。

写真の紋(五三の桐)は作業の途中ですが、プロセス紋と呼ばれるインクを使用した印刷紋です。インクを完全に落とした後、新しい紋を抜き直し異なる紋に入れ替えていきます。

紋消し(紋様を消す方法)

紋消しとは、染料を使用して白地部分を染めて消すことを言います。

写真のように、先ず墨書きの上絵を落とします。

上絵を落とした後、染め抜かれていた部分に筆を使って色差しを行い、紋様を消す作業です。

サービス一覧

きもの工房 扇屋で主に取り扱っている着物修復サービスの一覧です。染み抜き、洗い張り、サイズ変更などお客様のご要望を伺い、お着物に最適なお手入れをご提案いたします。お気軽にお問合わせ下さい。